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「勘違いして契約してしまったんですが、取り消すことはできますか?」「だまされて契約させられたのですが、どうにかなりませんか?」
契約に関するご相談の中には、こうした「そもそもこの契約、なかったことにできないか」というものも少なくありません。民法では、契約が成立していても、その意思表示に一定の問題(瑕疵)があった場合には、後から取り消すことができる仕組みが用意されています。
今回は、意思表示の瑕疵として代表的な「錯誤」「詐欺」「強迫」を取り上げ、それぞれどのような場合に契約を取り消せるのか、その考え方を整理してご紹介します。
契約は一度結んだら終わり、というわけではないんです。勘違いやだまされた事情があれば、後から取り消せる場合があります。今日はその仕組みを一緒に見ていきましょう!
契約は、当事者の意思表示が合致することで成立します。しかし、その意思表示が、勘違い・だまされたこと・脅されたことによって行われたものである場合、本人の真意に基づかない契約として、法律上一定の保護が与えられています。民法では、このような意思表示の問題を大きく分けて「錯誤」「詐欺」「強迫」として規定しています。
いずれも「契約を取り消せる」という点では共通していますが、要件や効果には違いがあります。それぞれ見ていきましょう。
錯誤とは、表意者(意思表示をした人)が、真意と異なる意思表示をしてしまい、かつ本人がそのことに気づいていない状態を指します。民法95条では、次の2種類の錯誤について、一定の要件を満たせば意思表示を取り消せると定めています。
さらに、錯誤による取消しが認められるのは、その錯誤が「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」である場合に限られます(民法95条1項柱書)。些細な思い違いであれば、取消しは認められません。
また、表意者に重大な過失があった場合は、原則として錯誤による取消しを主張できません(同条3項)。ただし、相手方が表意者の錯誤を知っていた(悪意)、または重大な過失によって知らなかった場合や、相手方も同じ錯誤に陥っていた場合には、重大な過失があっても取消しを主張できるとされています。
よくある事例:
中古の事業用車両を購入する契約において、買主が「年式が新しいモデルである」という営業担当者の説明を前提に契約したものの、実際には旧モデルだったケースがあります。買主がその年式であることを契約の前提として明確に伝えていた(表示していた)ことが認められれば、動機の錯誤として契約の取消しを主張できる可能性があります。
詐欺とは、相手方にだまされて(欺罔行為を受けて)、錯誤に陥り、それによって意思表示をしてしまった場合を指します(民法96条1項)。錯誤との違いは、相手方に「だます意図(故意)」があったかどうかという点です。
詐欺による意思表示の取消しが認められるためには、次のような要件が必要とされています。
なお、契約の相手方ではなく第三者が詐欺を行った場合(第三者詐欺)は、相手方がその事実を知っていた、または知ることができた場合に限り、取消しを主張できます(同条2項)。また、詐欺による取消しは、善意無過失の第三者には対抗できないという制限もあります(同条3項)。これは、事情を知らずに関わった第三者の取引の安全を守るための規定です。
よくある事例:
投資話を持ちかけられ、実際には存在しない事業への出資を勧誘されて契約書に署名してしまったケースがあります。事業の実態がないことを勧誘者が知りながら説明していた場合、詐欺による取消しを主張できる可能性がありますが、出資金がすでに第三者に渡っている場合、その第三者との関係でどこまで取消しの効果を主張できるかは、個別の事情によって判断が分かれます。
強迫とは、相手方から害悪を告げられて畏怖し、それによって意思表示をしてしまった場合を指します(民法96条1項)。詐欺が「だますこと」であるのに対し、強迫は「怖がらせること」によって意思表示を歪める点が異なります。
強迫による取消しは、詐欺の場合と異なり、善意無過失の第三者にも対抗できるという違いがあります(同条3項は詐欺のみを対象としており、強迫には適用されません)。これは、強迫による契約は、詐欺よりも表意者の保護の必要性が高いと考えられているためです。
3つの制度に共通するのは、いずれも「意思表示を取り消すことができる」という効果である点です。取り消された意思表示は、初めから無効であったものとみなされます(民法121条)。ただし、次のような違いがあります。
このように、同じ「取消し」という効果であっても、第三者との関係でどこまで保護されるかという点で、制度ごとに違いが設けられています。
Q. 「なんとなく損した気がする」という理由でも、契約を取り消せますか?
A. 単なる主観的な不満や、取引条件についての後悔だけでは、錯誤・詐欺・強迫のいずれにも該当しません。取消しが認められるのは、法律上の要件(重要な錯誤、欺罔行為、害悪の告知等)を満たす場合に限られます。
Q. 口頭での説明だけを信じて契約した場合でも、詐欺を主張できますか?
A. 口頭であっても、事実と異なる説明を意図的に行った場合は詐欺に該当し得ます。ただし、実際に取消しを主張するには、その説明の内容や、相手方の故意を証明する必要があるため、証拠(メール、録音等)を残しておくことが重要です。
Q. 契約から時間が経ってしまいましたが、まだ取消しを主張できますか?
A. 追認をすることができる時(一般的には錯誤・詐欺・強迫の状態を脱した時)から5年、契約の時から20年で取消権は時効消滅します。時間が経っている場合は、早めに専門家に相談して、主張が可能かどうかを確認することをおすすめします。
意思表示の瑕疵に関する主張は、要件が細かく規定されており、事実関係の整理や証拠の有無によって、取消しが認められるかどうかが大きく左右されます。「勘違いして契約してしまった」「だまされて契約させられた」と感じた場合、まずは専門家に相談し、事実関係を整理したうえで、取消しの主張が可能かどうかを検討することをおすすめします。また、契約書を作成する側としても、後から意思表示の瑕疵を主張されるリスクを減らすため、重要な前提事情を契約書に明記しておくといった対策が有効です。
契約は、当事者の意思表示が合致することで成立しますが、その意思表示に錯誤・詐欺・強迫といった瑕疵があった場合には、後から取り消すことができます。錯誤は「重要な勘違い」、詐欺は「だまされたこと」、強迫は「脅されたこと」がそれぞれの中心的な要件であり、第三者との関係で保護される範囲にも違いがあります。契約に関して「おかしいと思っている」ことがある場合は、時効の制限もあるため、早めに専門家に相談することが重要です。
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本記事は令和8年8月時点の情報に基づいて作成しています。民法や関連法令は改正される場合がありますので、実際の契約実務にあたっては、必ず最新の法令をご確認ください。また、本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の契約の取消しの可否を保証するものではありません。